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Title : Commentary 2000/01/05

【旧ユーゴスラビア国際刑事裁判所】


 旧ユーゴスラビア国際刑事裁判所について
 今回は、いつものDaily Highlightsで、たびたび登場している「国際刑事裁判所」について、シリーズで解説を試みます。第1回目は、「旧ユーゴスラビア国際刑事裁判所」について取りあげます。(次回は「ルワンダ国際刑事裁判所」です)。

 旧ユーゴスラビア国際刑事裁判所は、自らのホームページ を設置し、FACT SHEETという形で、その概要を紹介しています。ここでは、このFACT SHEETの抄訳に沿いながら、1993/5/3の国連事務総長報告書(S/25704)による解説を施していきます。

1999/11/17 FACT SHEET

■設置根拠

 旧ユーゴスラビア国際刑事裁判所(ICTY:The International Tribunal for theformer Yugoslavia)は、1993年5月25日の安保理決議827によって設置された。

【安保理決議による設置】
 この裁判所は、条約の締結によって作られたものではなく、国連の強制措置の発動である国連憲章第7章下の安保理決議 によって設立されています。
決議は、憲章第7章下の措置であるとするだけで、明示の根拠規定をあげていませんが、国連法務部は、41条の非軍事的制裁措置を例示列挙と捉え、その一環と考えたようです。報告書は、ICTYが、安保理の補助機関であり(憲章29条)、かつ司法機関としての独立性も有するとしています。  安保理の決定は、憲章25条により全加盟国に対する法的拘束力を有しますので、加盟国は裁判所の任務遂行に協力する義務を負います。

■場所

オランダ・ハーグ

■管轄

 1991年以降の旧ユーゴ領域で行われた国際人道法の重大違反に責任を有する個人の訴追について、権限を与えられている(裁判所規程1条)。

【領域的・時間的管轄】
 憲章第7章下の強制措置であることから、ICTYの活動は恒久的なものではなく、1991年1月1日以降、旧ユーゴの領土、領海、領空において国際の平和と安全が回復されたと、安保理が認定するまで、任務を続ける暫定的なものであり、領域的・時間的機能が限定された特設法廷なのです。

【人的管轄】
 個人の刑事責任を国際裁判所が設定するのは、国際法上の個人の主体性を実現する点では、画期的なものです。責任の内容については、規程7条において、2〜5条までに定める犯罪を計画、煽動、命令、実施した者、又は犯罪の計画、準備、実行において幇助若しくは教唆した者は、個人としてその犯罪の責任を負うこと、被疑者の公的地位(国の元首又は政府の長を含む)は、その者の刑事責任を免除せず、刑罰は軽減されないこと、上官が、その部下が犯罪を行おうとし又は行ったことを知り得た場合において、当該行為を防止するため又は当該行為を行った者を処罰するため必要かつ合理的な措置を取らなかったときは、その上官の刑事責任は免除されないこと、被疑者が政府又は上官の命令に従って行動したという事実をもって、その者の刑事責任を免除しないが、裁判所は刑罰の軽減においてその事実を考慮できます。

【優先管轄】
 国家元首までが逮捕・処罰の対象となっていることは、主権免除の原則との関係で問題となるが、憲章第7章に基づく安保理の決定であるため、憲章103条(憲章義務の優先)により、裁判所規程の義務が優先します。国連加盟国はICTYに対する司法共助の義務を負います。

 裁判所規程は、4つの罪を訴追する裁判所の権限について定義する。

  1. 1949年ジュネーブ4条約の重大違反(規程2条)
  2. 戦争の法規・慣例の違反(規程3条)
  3. ジェノサイド(規程4条)
  4. 人道に対する罪(規程5条)

【事項的管轄】
 報告書は、安保理が新しい国際人道法を創設したり、立法を目論んだりする意図はない、としたうえで、罪刑法定主義に則って、国際慣習法化したとされる4つの準拠法規をあげます。また、ジュネーブ4条約とジェノサイドについては、旧ユーゴ連邦が既に批准済みの条約で、分離独立後の条約承継国は履行義務を負うとされます。この点は、第二次大戦後のニュルンベルク・極東国際軍事法廷の際のような事後法の非難は免れるとされます。それぞれの主な内容を記すと、

  1. 1949年ジュネーブ4条約の重大違反(規程2条)
     殺人、拷問又は非人道的待遇、身体又は健康に対して重大な苦痛を与え、重大な障害を加えること、軍事上の必要によって正当化されない不法かつ恣意的な財産の広範な破壊又は徴発、捕虜又は文民を強制して敵対する勢力の軍隊で服役させること、捕虜又は文民から公正なかつ正式な裁判を受ける権利を奪うこと、文民の不法追放・移送・拘禁など
  2. 戦争の法規・慣例の違反(規程3条)
     1907年のヘーグ陸戦法規の多くの条項のうち慣習法化したもの。不必要な苦痛を与える毒性の兵器の使用、無防備の町村、住宅、建物の攻撃・砲撃・恣意的破壊、宗教・慈善・教育・芸術・学術の用に供する施設、歴史的建造物・芸術学術作品の押収、破壊、故意の損傷、公共・私有財産の略奪など
  3. ジェノサイド(規程4条)
     集団の構成員を殺すこと、集団の構成員の身体又は精神に重大な危害を加えること、集団の全部又は一部の身体を破壊することを目的とする生活条件を当該集団に意図的に課すこと、集団内における出生を妨げることを意図する措置を課すこと、集団内の児童を他の集団に強制的に移送すること(4条2項)。
     規程4条3項は、裁判所が処罰すべき行為として、集団殺害行為そのものに加え、共謀、直接かつ公然の煽動、未遂、共犯も犯罪とする。
  4. 人道に対する罪(規程5条)
     殺人、殲滅、奴隷の状態に置くこと、追放、拘禁、拷問、強姦、政治的、人種的及び宗教的理由による迫害、その他非人道的行為。      

    ■裁判所の構成

    裁判官:
    • 裁判所長:Claude Jorda (仏)
    • 次長:Florence Ndepele Mwachande Mumba (ザンビア)
    • 首席裁判官:アントニオ・カッセーゼ(Antonio Cassese) (伊), Richard George May (英), Almiro Simoes Rodrigues (ポルトガル)
    • 裁判官:Lal Chand Vohrah (マレーシア),Fouad Abdel-Moneim Riad (エジプト),モハメド・シャハブディーン(Mohamed Shahabuddeen) (ガイアナ),Wang Tieya (中国), Rafael Nieto-Navia (コロンビア),David Anthony Hunt(豪), Mohamed Bennouna (モロッコ),Patrick Lipton Robinson(ジャマイカ) ,Patricia Wald (米)
    検察官:
    • 主任検察官:Justice Carla Del Ponte (スイス),1999年9月15日〜
    • 副検察官:Graham Blewitt (豪),1994年2月15日〜
    書記局:
    • 書記官:Dorothee de Sampayo Garrido-Nijgh (蘭),1995年2月1日〜
    • 副書記官:Jean-Jacques Heintz (仏),1997年4月18日〜
    .
    裁判所職員:
    1999年11月時点:69ヶ国より851名
    予算:
    1993:27万6,000ドル
    1994:27万6,000ドル
    1995:27万6,000ドル
    1996:3543万622ドル
    1997:4858万7,000ドル
    1998:6477万5,300ドル
    1999:9410万3,800ドル

    【裁判所の組織】
     ICTYは、裁判部(The Chambers)、検察官(The Prosecutor)、書記局(Registry)の三機関で構成され(規程11条)、裁判部は、二つの第一審裁判部(Trial ChambersTandU)と、一つの上訴裁判部(Appeal Chamber)から成ります(12条)。
     裁判官は、徳望が高く、それぞれの国で最高の司法官に任命されるのに必要な資格を有する者とし、安保理が提出する名簿の中から総会が11名を選出します。任期4年で再選可能、
     勤務条件はICJ裁判官と同等です(13条)。
     シャハブディーン判事は、ICJ裁判官も兼ねています。
    検察官は、捜査及び訴追について責任を有し、いかなる政府の指示も受けず、裁判所の独立した機関として行動します。検察官は、徳望が高く、刑事分野で最高水準の能力と経験を有する者とし、事務総長の指名に基づき、安保理が任命します。任期4年で再選可能、国連事務次長と勤務条件は同等です (規程16条)。
      

    ■起訴:

     ICTYの任務開始以来、91人が公式に起訴されている(手続・証拠規則に従って、非公表の追加的起訴もあり)。これら被告人のうち6人は死亡(2人は、勾留施設にて死亡)、その他18人に対しての告訴取り下げ。1人の被告について手続を完了している。
     34人の被告について、現在、手続が係属中(32人は勾留施設に留置、2人は係属中の再審請求で釈放されている)。さらに、1人の被告について手続完了。残り32人の被告が、未拘束のままである。
     係属中の34人の被告のうち、7人の被告が、上訴審部にあり、8人の被告が判決待ち、また、第一審部によって刑を宣告(Sentence)される予定、2人の被告が一審の公判中、17人の被告が公判前の段階にある。

    【捜査】
     検察官は職権によって、又はあらゆる情報源(とくに政府、国連機関、政府間機関及びNGO)から入手した情報に基づき捜査を開始する(規程18条1項)。検察官は、被疑者、被害者、及び証人に質問し、証拠を収集し、並びに現地の捜査を行う権限を有し、これらの職務の遂行に当たり、適当な場合には関係国の当局の援助を求められる(第2項)。
     98年9月時点で起訴された被告人の人種構成は、ムスリム系ボスニア人3人、クロアチア系ボスニア人18人、セルビア系ボスニア人56人、旧ユーゴ人民軍からセルビア人将校3人。

    ■逮捕令状

    特定国に発効された逮捕令状:
    すべての被告に対して発効されており、現在、未決着のものが、Dragan Nikolic, Zeljko Meakic, Dragoljub Prcac, MomciloGruban, DusanKnezevic, Goran Borovnica, Dusko Sikirica,Dragan Fustar, Nenad Banovic,Predrag Banovic, Blagoje Simic, Ranko Cesic, Milan Martic, ラドバン・カラジッチ(Radovan Karadzic、前セルビア共和国大統領), Ratko Mladic, Ivica Rajic, Mile Mrksic,MiroslavRadic,Veselin Sljivancanin, Zoran Marinic, Gojko Jankovic,Janko Janjic, Zoran Vukovic, Dragan Zelenovic,Radovan Stankovic, Zeljko Raznjatovic, Mladen Naletilic,スロボダン・ミロシェビッチ(Slobodan Milosevic、ユーゴスラビア連邦大統領), Milan Milutinovic,Nikola Sainovic, Dragoljub Ojdanic, Vlajko Stojiljkovic.

    国際逮捕令状:
     8つの国際逮捕状が発効されており、現在、以下の被告人について未決着である:Dragan Nikolic, Milan Marti Mrksic, Miroslav Radic, Veselin Sljivancanin, Ivica Rajic, ラドバン・カラジッチ,RatkoMladic.
     さらに、補充規則55条D項によって、5つの国際逮捕状が発給されている。すなわち、スロボダン・ミロシェビッチ,Milan Milutinovic, Nikola Sainovic, Dragoljub Ojdanic,Vlajko Stojiljkovic.

    【規則61手続】
     裁判所には手続・証拠に関する規則が設置されています。これは、起訴に対して逮捕状が発効されていながら執行されていない状況で援用されるための手続です。規則61手続は、公開法廷で、召喚されている目撃者と検察局から提出された証拠によって開かれます。これは、欠席裁判ではありませんが、.被告人が犯罪に関与したと信ずるに足りる合理的な根拠があると満足される場合は、第一審部が、起訴を確定し、国際逮捕令状を発給することを可能にするものです。例えば、第一審部が、国家当局からの協力が欠如していると認定する場合、ICTYの裁判所長は、安保理にこの問題を報告することができます。上記の個人名簿は、国際逮捕令状に従ってなされた規則61の決定によるものです。

    【逮捕・捜索の実効性】
     当初、全く実効性がないと思われていた、ICTYの逮捕・執行活動は、紛争が長期化し、治まりを見せるとともに、起訴者の3分の1以上を逮捕・拘束するまで実効性をあげています。
     国連防護軍(UNPROFOR)に代わった、多国籍軍(IFOR、SFOR)は、96年までは起訴状を発行された人物らの捜索は行わず、たまたま遭遇した場合にのみ被疑者を逮捕する、としていましたが、97年春以降、米英の特殊部隊による急襲作戦を何度も敢行し、次々と容疑者を捕捉してきました。強気に出ていたセルビア人指導者のカラジッチも、国際起訴をされてからというもの、国外に出れなくなったため、事実上、大統領の公職には留まることができなくなりました。

    ■勾留者

     32人の被告が現在、勾留施設に拘留されている。
     Dusko Tadic, Tihomir Blaskic, Zdravko Mucic, Hazim Delic,Esad Landzo, Dario Kordic, Mario Cerkez, Zoran Kupreskic,Mirjan Kupreskic,Vladimir Santic,Drago Josipovic, Dragan Papic, Vlatko Kupreskic, Anto Furundzija, Goran Jelisic,Miroslav Tadic, Simo Zaric, Dragoljub Kunarac, MiroslavKvocka,Mlado Radic, Zoran Zigic, Milojica Kos, Milorad Krnojelac, Stevan Todorovic,Radislav Krstic, Dragan Kolundzija, Milan Simic, Radoslav Brdanin, Radomir Kovac, Vinko Martinovic, Momir Talic and Damir Dosen.

     2人の被告が再審中で釈放されている。
    Zlatko Aleksovski, Zejnil Delalic

    ■公判

    A.完了した手続
    1. Drazen Erdemovic (IT-96-22):
    B.上訴審部にあるもの
    1. Dusko Tadic (IT-94-1): 1996年5月7日〜1996年11月28日
    2. Zejnil Delalic, Hazim Delic, Esad Landzo, Zdravko Mucic - "Celebici"事件について(IT-96-21): 1997年3月10日〜1998年10月15日("すべての容疑について無罪釈放")。
    3. Anto Furundzija (IT-95-17/1):1998年6月8日〜1998年11月12日
    4. Zlatko Aleksovski (IT-95-14/1): 1998年6月6日〜1999年3月23日
    C.判決(Judgement) and/or第一審部(Trial Chamber)による刑の宣告(Sentence)待ちのもの:
    1. Goran Jelisic (IT-95-10):1998年11月30日〜1998年12月2日;1999年8月30日〜1999年9月22日
    2. Tihomir Blaskic (IT-95-14): 1997年6月24日〜1999年7月30日.
    3. Zoran Kupreskic, Mirjan Kupreskic, Vlatko Kupreskic,Drago Josipovic,Dragan Papic,Vladimir Santic(IT-95-16): 1998年8月17日〜1999年11月11日.
    D. 係属中のもの:
    1. Dario Kordic, Mario Cerkez (IT-95-14/2):1999年4月12日に開始.
    E. 公判前の段階のもの(Pre-trial stage):
    1. Dragan Kolundzija, Damir Dosen (IT-95-8)
    2. Milan Simic, Miroslav Tadic, Simo Zaric, Stevan Todorovic (IT-95-9)
    3. Dragoljub Kunarac and Radomir Kovac (IT-96-23)
    4. Milorad Krnojelac (IT-97-25)
    5. Miroslav Kvocka, Mladen Radic, Milojica Kos, Zoran Zigic (IT-98-30)
    6. Radislav Krstic (IT-98-33)
    7. Vinko Martinovic (IT-98-34)
    8. Radoslav Brdanin ,Momir Talic (IT-99-36)

    ■刑の宣告(Sentences判決)

    1. 有罪答弁(罪状認否で被告人が罪を認めること)によるもの
      1. Drazen Erdemovic:
        人道に対する罪の一件につき個人責任の理由で有罪を答弁し、1996年11月29日、第一審部から10年間の拘禁刑を言い渡された。被告人は、上訴した。1997年10月7日、上訴審部は、上訴人の有罪答弁が告げられていなかったという理由で、再答弁する機会が彼に与えられるよう、彼に判決した裁判部以外の第一審部に差し戻す旨、裁定した。.1998年1月14日、 被告人は、新しい答弁を申しで、戦争犯罪について有罪を答弁した。1998年5月5日、第一審部第2法廷(Trial ChamberU)は、彼に5年間の拘禁刑を言い渡した。1998年8月、Drazen Erdemovic は、刑の宣告にしたがってノルウェーに移送された。
      2. Goran Jelisic: 総計31件の人道に対する罪及び戦争の法規・慣例の違反について個人の刑事責任の理由で有罪答弁した。1999年10月19日、第一審部第1法廷(Trial Chamber I)は、被告人が実際に認めた犯罪に関与していること、それら犯罪について検察官の法的要件に同意していることに、満足する旨宣言した。被告人が無罪であると答弁した1件のジェノサイドについては無罪とする決定にしたがって、第一審部は、当事者に被告人が有罪答弁した案件につき審理することを言い渡す準備を命じた
    2. 公判によるもの
      1. Dusko Tadic:
        1997年5月7日、第一審部第2法廷(Trial Chamber II)によって、11件の戦争の法規・慣例の違反及び人道に対する罪の理由で、有罪と認定され、1997年7月14日、20年の拘禁刑を言い渡された。被告側・検察側双方とも、判決(Judgement)に対して上訴し、被告側は、刑の宣告(sentence)に対しても上訴した。
      2. Zdravko Mucic:
        1998年11月16日、11件のジュネーブ条約の重大違反及び戦争の法規・慣例の違反につき、彼の個人責任及び上官としての責任の理由で、第一審部第2法廷により有罪と認定され、7年の拘禁刑を宣告された。Mucicの弁護団は、判決及び刑の宣告に対しての上訴を申請した。 検察側は、刑の宣告に対して上訴を申請した。
      3. Hazim Delic:1998年11月16日、第一審部第2法廷により、13件のジュネーブ条約の重大違反及び戦争の法規・慣例違反につき、個人責任の理由で有罪と認定され、20年の拘禁刑を宣告された。Delicの弁護団は、判決と刑の宣告に対して上告を申請した。検察側も、上告を申請した。
      4. Esad Landzo:1998年11月16日、第一審部第2法廷により、17件のジュネーブ条約の重大違反及び戦争の法規・慣例の違反につき、個人として責任があると認定され、15年の拘禁刑を宣告された。Landzoの弁護団は、判決と刑の宣告に対して上告を申請した。
      5. Anto Furundzija:1998年12月10日、第一審部第二法廷により、2件の戦争の法規・慣例の違反につき、個人責任の理由で有罪と認定され、10年の拘禁刑を宣告された。Furundzijaの弁護団は、上訴を申請した。
      6. Zlatko Aleksovski:差し戻し第一審部第1法廷により、2件のジュネーブ条約の重大違反につき無罪であることが認定され、戦争の法規・慣例の違反については、共謀者としても、上官としても有罪であると認定され、2年6ヶ月の拘禁刑を宣告された。すでに2年10ヶ月と29日間服役したことを認めるという名目で、いかなる上訴にもかかわらず、第一審部は、彼の即時釈放を命じた。Aleksovskiの弁護団も、検察側も、判決と刑の宣告に対して上訴を申請している

      ■すべての起訴事実につき無罪だったもの

       Zejnil Delalic:1998年11月16日、第一審部第2法廷によって、11件のジュネーブ条約の重大違反及び戦争の法規・慣例の違反につき、無罪であると認定され、即時釈放された。検察側は、判決を不服として上訴を申請した。

■上訴

  1. Dusko Tadic: 審理が1999年4月19日から22日まで行われた。
    上訴審部は、Tadicの上訴をあらゆる点から否認する判決を7月15日に下した。 上訴審部は第一審部の判決を覆し、被告人が6件の1949年ジュネーブ条約の重大違反及び1件の人道に対する罪の理由で、有罪であると認定した。さらなる案件についての刑の宣告(sentencing)の争点が、裁判所長によって指名された第一審部に委ねられた。
    1999年11月11日、第一審部は、Tadicに、25年の拘禁刑を言い渡した。
    1997年8月11日に被告側から提起された判決に対する上訴は、然るべき手続で審理される予定。
  2.  2. Zejnil Delalic, Hazim Delic, Esad Landzo, Zdravko Mucic - the"Celebici"事件につき: 審理期日未設定。
  3.  3. Anto Furundzija: 審理期日未設定。
  4.  4. Zlatko Aleksovski: 審理期日未設定。

■完了した訴訟

  1. Drazen Erdemovic (上記の刑の宣告(Sentence)参照)
  2. Slavko Dokmanovic (1998年6月29日、勾留施設内で自殺)
  3. Milan Kovacevic (1998年8月1日、勾留施設内で自然死)

【判決】
 判決は、第一審部の裁判官の過半数で決定され、公開の場で言い渡されます(規程23条)。裁判所は死刑を課する権限は与えられておらず、刑罰は拘禁刑に限られています。刑罰の執行については、旧ユーゴ領域外で行われ、協力の用意のある国連加盟国において収監されることが予定されています。規程27条は、拘禁刑は、有罪判決を受けた者を受け入れる用意を表明した国の中から、裁判所が指定した国において、当事国の関係法令に従って執行されます(28条)。

◆「今日の一言」

 あけましておめでとうございます。
 本年もSUNをよろしくお願いします。

 昨年末、NHKスペシャル「映像の世紀」で、第二次大戦以前のユーゴスラビアの模様を貴重な映像を交えながら解説していました。戦前には、クロアチアの独立運動が、ナチスドイツと結びついて、セルビア人を虐殺する民族浄化が行われていたことが最近、明らかにされました。
 近年の報道では、「極悪セルビア」一本槍ですが、旧連邦崩壊前のチトー政権は、戦前のセルビア人虐殺の歴史を極秘事項として封印したうえで、民族の共和を謳ってきたといいます。

 国連の国際刑事裁判所の試みは、どちらが悪いとして、国家に制裁を加えたり、どっちもどっちだという解決をつけるものではなく、あくまで個人の刑事責任を追及しようとする動機に基づいています。したがって、戦争中に残虐行為を行った軍人、司令官、収容所の看守、政策を指示したり、止めなかった政治家について、国籍、人種のいかんに関わらず、衡平な訴追・処罰が求められます。

 現実に起訴された被告の数は、セルビア人に偏っていますが、これは、違反行為の実行者・首謀者が軍事的に圧倒的に強力なセルビアによって行われているからであって、クロアチア人やムスリムの容疑者が起訴されていないわけではありません。

 なおユーゴ紛争についてさらに詳しく知りたい方は、

War Criminal Watch was by the Coalition for International Justice 

 日本語では千田善氏のホームページをお勧めします。

 戦後の二つの国際軍事裁判が、戦勝国による敗戦国への復讐、報復の名目とされた色彩が強いのに対して、国際刑事裁判所の理念は、戦時犯罪についても法の支配を及ぼし、戦争が終われば戦争中の個人の行為は、それで免責になるという考え方じたいを破棄し、「復讐の連鎖」を止めることに主眼があります。

<参考文献>

千田善 『ユーゴ紛争―多民族・モザイク国家の悲劇』(講談社現代新書)
千田善 『ユーゴ紛争はなぜ長期化したか』(勁草書房)
種田玲子「旧ユーゴに関する国際裁判所の設立について」『ジュリスト』1027号
伊藤哲雄「旧ユーゴ国際裁判所の法的な枠組みと問題点」『立教法学』40号
坂本一也「国際刑事裁判所設立構想に関する一考察」『法学』(東北大学)59巻3号

Jo


Updated : 2000/01/05